グッバイ・クリストファーロビン観賞

先日の「クマのプーさん」を読んだことから、「グッバイクリストファーロビン」も観賞してみました。

~あらすじ~
「クマのプーさん」の誕生秘話。作家のA.A.ミルンは、結婚して間もなく第1次世界大戦から生還したもののPTSDに苛まれた。そんな中、妻ダフネは子供を身ごもる。女の子を切望したダフネだが誕生したのは男の子だった。男の子はクリストファー・ロビンと名付けられる。一家はナニー(子供の世話をする人)のオリーブも連れてロンドンから田舎町へ移住した。そんな折、ふとしたことでミルンとクリストファー・ロビンは2人きりで過ごすことに。クリストファー・ロビンと過ごす中でぬいぐるみと息子が過ごす様をみて、新作「くまのプーさん」を創作。妻の手により、世に公表された作品は想像以上の人気を博し、ミルン家は瞬く間に「時の人」となるが・・・。


クリストファー・ロビンが主役の物語かと思いきや、A.Aミルンとダフネの出会いから出産までも丁寧に長く描かれ、クリストファー・ロビンの成長も含めた「ミルン一家全員が主役となる物語」でした。


観賞した印象は、なかなかに生々しく、人間臭い作品で意外に重かったです。
観ている側としてA.A.ミルンだけでなく、妻のダフネやクリストファー・ロビンまでもミルン家には誰一人共感もできないし、それはもう他所の家庭の裏事情を覗き見しながら、砂を噛んでいるような小さな不快感が続きます。

若干、クリストファー・ロビンに同情しないでもありませんが、大きくなった彼の言動は第三者的に理解できても、やはり共感はできませんでした。

ただミルン一家は、全員がそれぞれを愛して、認めてほしかったんだと思うと同時に、全員が単に不器用で歯車が噛み合わなかっただけのようにも感じましたた。それだけに見終わったあとに切なさが強く残ります。


私はディズニー映画で観る「クマのプーさん」が元々好みではありませんでしたが、世界的有名な作品として原作も知っておきたいと思い、原作を読んでみました。
読み終えて、ディズニー映画の「クマのプーさん」は原作に忠実であったことを知ると同時に、やはりあまり好みではない作品なんだとも再認識しました。

ところが原作のあとがきを読んだところ、A.A.ミルンと息子との間に亀裂があったことを知り、クマのプーさんより、ミルン家のことを知りたくなったのです。そこで、この映画を鑑賞したのですが、最初にイメージしていたものとは全く違いました。


単にクリストファー・ロビンが主役で「クマのプーさん」と共に有名になりすぎた自分と父親との確執を描く作品かと思っていたのですが、先に触れたように「ミルン一家全員の物語」です。
でもそれは必然で、むしろ全員がいなければ成り立たない物語でもありました。

その中でも特筆すべきはA.A.ミルンです。
イギリス人特有の神経質で陰鬱とした雰囲気を醸しだし、またその苦悩に抗いきれない弱さがなんとも人間味あふれていました。編集者から求められる自分にもなれず、妻から求められる自分にもなれない。
そして息子からは拒絶されてしまうあたりが痛ましすぎる上に、本人は誰にも何も求めないところも哀しくて寂しい感じがしました。

偶発的に生まれた「クマのプーさん」も自分の手を離れて独り歩きしてしまいますが、まったくもってコントロールしようとしないあたりがミルンらしいです。
唯一、息子のために起こした行動と言えば「クマのプーさん」の続きをもう書かないと決めたこと。でも、時すでに遅すぎて、その行為の意味は薄くなっていました。
息子への何よりの愛のカタチだった「クマのプーさん」は悲しく幕を閉じてしまったのです。


映画では描かれていませんが、個人的に印象に残ったのが「クマのプーさん」が売れた要因が私なりに気になりました。
なんでもない児童文学が老若男女問わず飛ぶように売れたのは第一次戦争のあと、疲弊した人々の求めた心の癒しであったり、それぞれの平穏が具現化としたものであったからでしょうか。
もちろん、そういったことに心を動かせられるほどに時間と気持ちに余裕が出てきた証ともいえるのですが、その熱狂ぶりは、開戦当時の群集心理に似ているような気がして、なんとも言えない気持ちになりました。


物語は、A.A.ミルンとクリストファー・ロビンが和解するところで終わりますが、個人的には清涼感はまったくなく、この一家の今後を案じてしまう終わり方です。
でも、それは現実と同じで誰がどう願おうが、それぞれの人の人生はそれぞれの人が歩み、決めること。
A.A.ミルンやその一家のことを思うより、そんな背景で「クマのプーさん」が生まれたかと思うと、最初の頃より「クマのプーさん」に対する印象はがらりと変わり、再読もありかなぁと思うようになりました。
さらに「クマのプーさんと魔法の森」(クリストファー・ミルン著)に強く惹かれるのでした。

ラルーンドエスト