ぼくたちは幽霊じゃない

自分の中で「1ヶ月1冊読書」という目標があります。
本を読みたいなぁと思うけど、読書家ではないので、なかなか本を読むことができません。
習慣化とまではいかなくても、1ヶ月1冊くらいを目標にして、自分の中になにかインプットしたい気持ちがずっとあり、ちょいちょい読むことが増えてきました。
せっかくなので忘れないよう備忘録も兼ねて、読んだ本を記していきたいと思います。

ぼくたちは幽霊じゃない/ファブリツィオ・ガッティ著(関口英子訳)
岩波書店

主人公の少年は、出稼ぎに出た父を追って、母親と一緒に幼い妹と自分の国を出ます。それは違法な手段で。
どうして違法な手段ではなく、正当な手続きを経て国を出ていかないかという点は書かれてませんし、教養のない私には分かりません。
ただ密入国というのは窃盗や傷害などのような犯罪ではないかも知れませんが、罪であることには違いないんじゃないかと思いますが、この考えはおかしいのでしょうか?

主人公や主人公の家族は、警察に見つかると強制送還されてしまいます。
そのために人目につかないよう派手な行為を避け、必要最小限の行動(仕事や通学)しかとらないようにして過ごしていました。
それが故に主人公の少年は度々、本の題名にもなった「自分達は幽霊じゃない」と台詞を言います。

中学校の先生に「隠れて暮らしているのは、法律に違反した人か、泥棒や盗賊です」と言われ、主人公はその言葉を疑問視するのですが、あながち間違いではないと思いました。もちろん少年や家族が犯罪を犯したり、人に迷惑をかけたりはしていないのですが、法律に違反しているのは事実です。
ただ、この本を読んで一番考えさせられるのは「何が良くて何が悪いかなんてことは計り知れない」というところでした。
特に文末にある一文は色々考えさせられます。

ヨーロッパでは「正義」と「法律」が必ずしも一致するわけではないということ。法律で定められていることが、全て正しいわけじゃないんだ

「ぼくたちは幽霊じゃない」247頁

という一文です。「正義」とはゆるぎないひとつのものではなく、国、人種、個人によってその「正義」は大きく異なります。
しかし「法律」は社会の大きな決まり事で、それによって世の中は保たれています。
そもそも同一線上に考えられるものではないと思うのですが、同一線上で語られることはよくあります。
これを一緒に考えようとすると、話はややこしくなると思うのですが、そこは子供の目線なので、率直な一個人としての意見だなと胸を揺さぶられました。

密入国というのは命からがらなものだと聞いたことがありますが、この本を読んで本当なのかと驚きを隠し切れません。
また「こんな想いをしてまで?(こんな想いを子供にさせてまで?)」と理解に苦しむことも多々あります。
主人公たちの国からイタリアへ渡るまで不安と不安(あえて2回言います)しかありませんでした。
無事イタリアに渡り、少しばかりの心の希望を持ちつつも、その後のイタリアでの暮らしは悲惨なもので、読書中はこの物語の結末に光は見えませんでした。
しかし、この本は児童書なので結末は大団円とまではいかなくとも幾ばくかの希望と、そして疑問を呈して終わることになります。

密入国する際もそうですし、不法移民としての暮らしの中でも少年や妹の鋭い指摘に大人は、自分の都合のよい答えしかしないなぁと思いました。
簡単に出る問いではないが故に、安易に子どもに伝えるには語弊があるというか、もう少し思慮をもつべきというか。

また度々イタリア人(政府)を悪くいう節がありますが、個人的にはすべてのイタリア人や制度が悪いわけでもないと感じました。
その中で何より信じられなかったのは「不法移民であるにも関わらず、学校へ通えること(憲法で誰でも等しく教育を受ける権利があると決められているので不法移民でも教育を受けられる)」です。もちろん矛盾も感じますが、なんという憲法なのかと驚きました。

とにかく密入国や不法移民などのような知らないことだらけの連続でこの本を読むと、自分の無知がもどかしくなることが多々あります。
もっともっと世の中のことを知りたい・知るべきだと思う反面、答えの出ない矛盾だらけの世の中に途方に暮れそうにもなりました。

50を過ぎた大人でさえ、そう思うのですが、この本を読んだ子供たちはいったい何を想い、これからの世界をどう過ごしていくのでしょうか?
なかなか示唆に富む一冊です。

ラルーンドエスト